現代の蟹工船 逃れて 働けど実習生(2) – 西日本新聞



 怒鳴られ、殴られ…。それも毎日。「僕は動物じゃない」。長崎県大村市にある大村入国管理センターの面会室で、ベトナムから来日した20代のトゥオンさんは切々と訴えた。

 失踪者急増 難民申請も

 外国人技能実習生として2015年5月から横浜市にある建設会社に受け入れられた。日本語がよく分からず、理解できたのが「ばか」「国に帰れ」。日本人の同僚からカッターナイフを投げつけられたこともあった。いじめだった。

 母国で実習制度に応募したときは、とび職と聞いていた。実際はシートで養生された部屋で、壊した天井を袋に詰める仕事だった。「日本人はマスク着ける。僕、着けない。何で?」。袋の文字をパソコンで調べた。アスベストだった。

 2カ月で会社を飛び出した。都内の公園で4カ月を過ごし、その後の2カ月は新潟県の工場で働いた。実習生は原則転職できない。不法就労が警察にばれて、昨年1月、入管難民法違反の容疑で逮捕された。

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 静かな大村湾を望む入管センターには、出国を拒み続けて収容が長期に及んでいる外国人が、全国の入管から移送されてくる。昨年末時点で82人。失踪した実習生も少なくない。

 トゥオンさんもベトナムに帰ろうとしない。「目や内臓を取られて殺されるから」。出国する準備金としてマフィアに150万円を借りたという。月収は母国だと1万円程度、横浜の会社は10万円以上。そのままいれば、3年の実習期間で十分に返せる額だった。

 現在は強制送還を免れるため、難民認定を申請している。ただ、人種や宗教を理由に迫害されるようなケースではなく、認められる可能性はほとんどない。

 生後3カ月で残してきた娘は2歳になった。「会いたい。でも仕方ないね」。出口が見えないまま、いたずらに時が失われていく。

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 5803人-。15年に失踪した実習生の数だ。法務省によると、全体の3%に当たり、5年で4倍近くと急増している。

 「彼らは人手不足の救世主。日本人と同じか、それ以上の待遇なのに」。受け入れ窓口として実習生を監理する九州の事業協同組合の幹部は、ため息をつく。最近は自ら姿を消すケースが少なくないというのだ。

 かつては最低賃金すら保証されず「現代の蟹工船」とやゆされた実習制度も、少しずつ改善されてきた。実習生同士はフェイスブックなどでつながり、そこでは業界間の賃金格差が話題になっている。幹部は「きつい職場を嫌がる実習生が増えてきた」と実感する。

 働けど実習生という中途半端な立場が、トゥオンさんが逃げ出したような悪環境を残す一方で、新たなひずみも生じさせている。

=2017/02/23付 西日本新聞朝刊=

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