営農10年目きしむ諫早干拓地 農地リース料の徴収強化 開門裁判に疲弊、撤退も相次ぐ



 営農開始から10年目を迎えた諫早湾干拓農地(諫早市)で、営農者が県農業振興公社と5年ごとに結ぶ農地リース契約の2度目の更新審査が進んでいる。公社が今回の更新で打ち出したのは、リース料の徴収強化。公社が国から農地を購入した際の借入金について返済猶予期間の終了が迫り、リース料の確保で財政安定化を目指すためだ。一方で、開門を巡る訴訟判決に翻弄(ほんろう)される営農者側には事業撤退の動きが相次ぎ、公社への不満も漏れる。

 中央干拓地(約580ヘクタール)の西側。「愛菜ファーム」は8月下旬、温度や湿度を自動制御する最新型ハウス建設に着手した。山内末広常務は「(来年度からの)次の5年間こそは黒字を目指す」と言う。

 親会社は建設機械販売キャタピラー九州(福岡県筑紫野市)。公共事業削減などで受注が減る中、2008年の第1期募集から干拓地に進出し、農地47・2ヘクタールを借りた。12ヘクタールにハウスを建設して高収益の施設園芸を営む計画だったが、10年に潮受け堤防の開門を命じた福岡高裁判決が確定し「先行きが見通せない」として、6ヘクタール分で中断していた。

 今年4月、今度は国に開門差し止めを命じた長崎地裁判決が出たのをきっかけに、中断分の建設を再開したのだ。

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 契約継続を希望する営農者は、今後の作付け計画や経営状況の審査を経る必要がある。審査の際に重視されるのが、1ヘクタール当たり年約20万円のリース料の支払い実績だ。

 公社が干拓地購入の際に政府系金融機関などから借り入れた約47億円の返済猶予期間は本年度で終わる。来年度以降の返済額は年2億4700万円。リース料収入だけでは賄えず、6割は県から借り入れる計画だが、今年7月末時点でのリース料滞納額は2772万円に上る。「これまで以上に滞納は許されない状況」(公社)とする。

 干拓農地では営農者から「水はけが悪くなった」という訴えも相次ぎ、地盤沈下や排水設備の劣化も指摘される。契約更新を見送った農園経営者男性は「気象や土壌環境のリスクが大きく、思ったほど収益が上がらなかった。トラクター購入などの初期投資5千万円は回収できそうにない」。

 全国の国営干拓事業で整備された農地の大半は営農者に売却されているが、諫早湾干拓ではリース料を払い続けても農地が手に入る見通しはない。県によると、営農開始からこれまでに計7経営体が撤退した。

 公社によると、現在の40経営体のうち38経営体が更新を希望し、9月末までに35経営体の更新が仮決定したが、2経営体は契約を更新せず来年度からの撤退を決めた。

 現在の営農者を対象にした更新審査は今月半ばに終了。「不合格」や撤退で空きが生じた農地は、新たな入植者を募集するという。

 【ワードBOX】国営諫早湾干拓事業

 農林水産省が農地確保と低地の高潮対策を目的として、有明海西部の諫早湾を全長7キロの潮受け堤防で閉め切り、672ヘクタールの干拓農地と、農業用水を供給する淡水の調整池を造成した。総事業費は2530億円。農地では現在40の個人・法人が施設園芸や野菜や飼料作物の露地栽培を営む。有明海の漁業被害を訴える漁業者らが堤防の開門調査を求めているが、農水省は来年度予算の概算要求に開門に向けた事業費を計上せず、漁業支援のための基金創設費を盛り込んだ。

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 「リース料滞納なら契約解除」 「同意書」巡り反発も

 今回の契約更新で県農業振興公社は初めて、リース料を滞納した場合は契約打ち切りもあり得るとした「同意書」の提出を営農者に求めた。

 同意書は(1)審査会が必要と判断した場合は連帯保証人契約か保証金を納入すること(2)滞納があった場合は契約を解除できること(3)5年後の再設定時に滞納があった場合は契約を更新しないこと-など8項目。公社は「これまで口頭で確認した内容をあらためて文書にした」と説明する。

 ただ、農業は気候や市場価格の変動で影響を受けやすく「毎年、露地栽培で1ヘクタールあたり(リース料相当の)20万円の利益を出すのは大変」(営農者)。反発を強めた一部の営農者は6月、グループ「諫干営農者の会」を結成して対応を協議した。

 「諫干営農者の会」会長の松尾公春さん(60)=マツオファーム代表=は当初、同意書の提出を拒否。数カ月に及ぶ交渉の末、9月半ばに「今後は営農者側と合意した上で契約内容などを定めること」などの前提条件付きで提出した。

 これに対して公社は条件の撤回を求め、今月初めには「このままでは審査ができず、契約更新もできなくなる」と文書で通知。県や公社によると、契約更新を求める38経営体の大半は同意書を提出しているが、松尾さんは「多くの営農者は不満に思いながらしぶしぶ提出したはず。県は開門差し止め訴訟では営農者を原告にして漁業者と対立させたのに、(開門差し止めという)判決が出ると『稼げないならば出て行け』と言うのか」と憤る。

=2017/10/12付 西日本新聞朝刊=

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